美容整形をとりまく環境

美容整形に対する日本国民全体の認識も、10年前、20年前に比較すればずいぶんと深くなったと言えるのではないだろうか。現に個人開業を目指す医学生のうち、美容整形や形成外科に進む者の割合が、年を追うごとに上昇カーブを描いているという報告がある。ひとつには再生医療の研究が、生化学の急速な進歩によって大きく進展したことが挙げられる。またひとつには、年々高齢化に向かってその様相を変えつつある社会全体の要請として、アンチエイジングの一貫としての「審美的」美容整形が大きな期待を寄せられつつあることも見逃せない。

美容整形という医療分野が他の医療行為に比して過度に貶められ、誤解されてきた歴史は長い。これは我が国における、容貌に対する「世界でもまれな」認識と文化的背景に強制される部分が大きかったと言えるだろうし、前世紀における「美容整形のニーズ」が「特殊な利用者層」に限定されていたことにも起因している。そして何より我が国においては、これまた独自の「医療をめぐる法制度」の特殊性が、美容整形にとっての重い足かせになっていたと言えるのではないだろうか。

美容整形が我が国においてずいぶん長い年月にわたり「特殊な医療分野」としての位置に不当に押し込められてきたのは、こうした美容整形をめぐる「環境」がもたらした部分が大きい。それゆえ美容整形の真実の姿は隠蔽され、本来の美容整形とは似ても似つかぬマッドサイエンティスティックな「妖術」が、あたかも美容整形の実態であるかのごとくまことしやかに流布されてきたのである。言い換えれば20世紀における美容整形は、知らない者にとっては一種の「都市伝説」の類に等しい存在であったかもしれない。

美容整形の世界をここまで「謎のテクノロジー」に祀り上げてしまった犯人は、何より「デタラメさでは天下公認の芸能マスコミジャーナリズム」であろうし、もうひとつは映画や小説などのエンタテイメント文化ではないだろうか。これらの世界で語られる美容整形の、なんとも隠微で不可思議な効果は、とても最先端テクノロジーに支えられた技術には見えない。主人公の敏腕スパイを政府要人の替え玉に仕立てたり、任務が終了すればまた元の姿に簡単に戻したりといった荒唐無稽な記述は美容整形に対する大きな誤解を生んだし、それを真に受けた映画作品による「トリック撮影」がこれに拍車をかけた。大物犯罪者の顔を金次第で別人に変貌させ逃亡の手助けをする「闇の整形外科医」の実在を信じる人も結構いたはずだ。

美容整形は確かに他の医療分野と性格を異にする部分もあるため、おかしな色眼鏡で見られる場合が多かった。R&B系ポップスの黒人スーパースターが過度の美容整形を繰り返し、原形をとどめぬほどに変貌してしまった姿や、我が国のセレブ代表を自称する美人姉妹のプラモデルのような容姿は、美容整形に対する世間のイメージをかなり歪めてしまったのではないだろうか。あれらは美容整形というより金にあかせた「趣味のサイボーグ手術」とでも言うべきもので、本来の美容整形とはこれほど悪趣味なものではない。